アメリカが抱える問題と、日本が迎えている「変化」について。

こんにちは、北田です。

先週も引き続き、日経平均株価が上昇し、
外国人投資家の買い越しとなりました。

●日経225採用銘柄や半導体関連銘柄だけではなく、
マザーズ指数銘柄や中小型株にも買いが波及

●米国市場でもナスダック市場や半導体やAI関連銘柄だけではなく、
NYダウも大きく上昇し、買いが他のセクター等にも入る

など、あらゆる市場が好感を受け、さらなる高値を目指して動きましたね。

しかし、先週のトピックスとしてはやはり
「アメリカの債務上限問題で、デフォルト回避されたこと」にあります。

アメリカでは財政経営を守るために、
国債発行などで「借金」できる金額に上限があります。

この上限を引き上げるには議会の承認が必要ですが、
もし承認が得られなかった場合は「債務不履行=デフォルト」に陥ったことになり、
国そのものが信頼を失い、世界の経済事情にも大きな影響を及ぼすのです。

そのため投資家だけでなく
多くの人がアメリカの様子を見守っていましたが、
ついに先週、債務上限の引き上げが一部可決。

つまりは「デフォルト回避」となり、
デフォルトの危機を一旦は先延ばしにできたということになります。

同時にこれを受け再び世界中の経済は動いていくのですが、
その中でも今後現在の株高がいつまで続くかを見極めるには、
日本が今「変化を迎えている」ことも念頭におかねばなりません。

そこで今回は
アメリカが「デフォルトを回避」したことによる影響と、
日本が今その渦中にある「変化」を切り口にして、

各国の主要通貨ペアの見通しや
その他に今考えておくべきファンダ要因を整理していきます。

日本が迎えている変化とは?

経済悪化のニュースなどが目立つ中でも、
現在日本の株価は上昇しています。

そのため「裏でバブルが起きているだけ」というわけではなく、
実はしっかりと地に足をつけて成長している最中と言えます。

日本のインフレは確実に定着しつつあり、
例えば先週発表された、百貨店の松屋が毎月行う報告では、
銀座店の売上高は、コロナ禍前の2019年5月に比べると
約17%増という数字になっていました。

これは外国人訪問客の増加で
免税売上高が伸びたという側面もありますが、
同時に高級時計やラグジュアリーブランド等、
いわゆる富裕層の買いも大きく伸びた内容となっていました。

この月毎の報告一つとっても分かるように、
現在富裕層や、外国人達がどんどんと日本の高級品を買い、
また一等地の新築マンション等の売れ行きも好調なようで、
日本の商品の値段が見直されている状態になっていると言えます。

その理由は前回の記事や
YouTubeチャンネルでのタイムズでも解説しましたが、

今日本株が買われているのは、
株も物の値段も「日本は安い」からです。

バフェット氏の日本株買いや来日をきっかけに、
日本株は安いということが世界中の投資家に知れ渡り、
日本の商品とともに買われているのです。

これを受けて一部、
「日本株はバブル」という意見もありますが
そうではないのです。

なぜなら直近の決算発表でも
各社過去最高の利益を出している会社も多くあり、
また日経平均採用銘柄のPERとしても、
まだ18倍と、海外に比べてもまだまだ安い状態だからです。

このように聞くと、
これまでずっと「デフレ」が当たり前の社会で生活してきた我々は
にわかには信じられないかもしれません。

また、
こんなに株が買われている理由がわからないまま、
「どうせまたすぐ売られるだろう」と
考えてしまう人も多いのではないでしょうか。

しかし、
これまでに述べた背景を踏まえると
現在の日本はまだまだ残る伸びしろに向け、
着実に株価を上昇させていることがわかるのです。

それでは、
この「変化」を踏まえた上で
いよいよ為替市場に目を向けていきましょう。

債務上限引き上げ後のドルは売り?or買い?

答え:様子見

解説:
ドルに関しては、
債務上限引き上げ法案の採決で下院で可決された直後も、
さほど大きな動きは見せませんでした。

既に織り込み済みだったのか、
ないしはFRBのハト派発言が意識され、
売り買いが交錯した結果なのではないかと考えています。

さらに今週以降は6月15日のFOMCが注目されて
売買されていきますが、

こちらに関しても既にブラックアウト期間に突入し、
FRB高官達からの重要な発言は入ってこない状態。

ただ、先週の時点では

●次期副議長のジェファーソン氏が、
今回の利上げは「スキップ」しても良いという発言

●その直後にハーカー連銀総裁も利上げ停止の発言

と続いたことで
6月は一旦は利上げ停止の確率が高まっています。

しかし7月以降はデータ次第では、
再度の利上げが行われる可能性も十分にあることから、

利上げによるドル買いを今後も継続していくことは
暫くは難しくなったと言えます。

また先週発表された雇用統計では、
非農業部門雇用者数は大幅に上昇したものの、
平均賃金は予想よりは低い数字、失業率は上昇と、
雇用の緊急性には若干の落ち着きが見られる数字となりました。

ここで疑問なのが、

非農業部門雇用者数は大幅に上昇しているのに、
なぜ失業率は上昇しているのか

という点です。

最初に思い当たる見解としては、
「失業率のアンケート先がズレたのではないか」ということ。

失業率の精査は本来、家計調査にて行われるものですが、
雇用者調査で行われる非農業部門雇用者数とはアンケート先が異なり、
それにより少ないサンプル数に矛盾が生まれた可能性があります。

その上でさらに細かく見ていくと、
労働参加率は前月から変わらない一方で、
失業率の部分は特に黒人が急増しています。

また労働時間に関しては、
若干減少しており、2020年の4月来の低水準となっていました。

これらのことから、
雇用主は、解雇するよりも、
労働時間を減らすようにしているのではないか、
そしてそれは景気が弱まっているからではないか、
と予想することができます。

また賃金は特に製造業が減少しており、
先日発表された製造業PMIからも分かる通り、
製造業は在庫調整等で苦しんでいる印象です。

加えてITテクノロジーを主要とするテック企業や
製造業が雇用者をリストラしている中、

飲食等のサービス業は採用を増やしており、
求職者も多く、賃金がやや落ちてもいます。

このように、
今回の雇用時計の結果は単純に
「良い」「悪い」と明確に判断できるものではなく、
業種や人種等で大きく差が開いている状態だと言えます。

ただ市場全体の総括としては
その後大きく株価は上昇に反応し、
今月の利上げ停止のさらなる後押しとなった結果となりました。

このまま次回6月13日のCPIでも低い数字が出てくれば、
利上げ停止観測が強まり、米国株は大きく上昇していくでしょう。

結果、ドルに関しては、
米国株について上昇していくのか、
もしくは利上げ観測後退により売られていくのか、
少し難しい展開となりそうです。

そのため、ドルの売買に関しては今は「様子見」としています。

ただ、この様子見に関して実は1点、思い出されることがあります。

オバマ政権の時の国債格下げに関して

上記までを整理した上で、
ここからもう1つ気にしておくべきことがあります。

それは、「オバマ政権の時の国債格下げ」について。

2011年にも今回と同じように、
債務上限問題で、民主党と共和党のチキンゲームが行われていましたね。

具体的な日付で言うと、
8月2日が期限だったのに対して

●7月31日に民主党、共和党で合意

●8月1日に下院で可決、2日に上院で可決

その後すぐにオバマ大統領が署名をして、
ギリギリでデフォルトを回避できたということがありました。

しかしその後、
8月5日に格付け会社がアメリカの長期国債に対して、
「AA+」から「ネガティブ」に格下げしたことで、
米国株はもちろん、日本株も数日に渡って暴落したのです。

そして実際に格付会社フィッチは、
米国債の信用格付けを「AAA」から、
格下げ方向で見直す可能性のある「ネガティブ・ウオッチ」に指定。

ムーディーズも米国債格付け見通しを
「安定的」から「ネガティブ」に変更する可能性を示唆し、
同じく格付け会社であるDBRSモーニングスターも格下げを匂わせています。

そのため今回債務上限問題が解決したとしても、
今後も政治情勢が二極化されることは変わらず、
引き続き格下げの可能性は高いとしています。

確かに現在は債務上限問題が解決したかのように見え、
投資家達にもリスクオンムードが漂っています。

しかしここまでで述べた格付け会社の示唆を踏まえると、
素直に楽観視できる状況とは言い難く、

むしろ根本的な部分が解決されないまま
問題を先送りにしているだけであると言えます。

また今回は民主党側が
歳出削減に関してかなり譲歩したということもあり、
アメリカ経済にとってはマイナスに働く可能性も大きい状態。

このように、
現在のドルの様子に関しては
かつて似た状況にあった「オバマ政権時」のことを
頭に入れて見ていく必要があります。

その他主要通貨ペアの今後の展望

さて、ここまでで
日本のインフレとアメリカのデフォルト回避について
触れてきましたが、

さらに広い視野でその他の主要通貨ペアについて
注目していきましょう。

ということでここからは、
ドル以外の主要通貨のトレードポイントを
それぞれ解説していきたいと思います。

ユーロについて 売り?or買い?

答え:買い

先日のCPIでは一部、
コアも含めて伸びがやや鈍化はしています。

しかし依然として高い数字であることに変わりは無く、
またECB関係者からのタカ派発言も続いていることから、
ユーロは引き続き買われやすい状況が続くと考えています。

ポンドについて 売り?or買い?

答え:買い

ポンドに関しても、
インフレが続いていることと
イギリス経済の先行き不透明感もここ最近は和らいるということから
買いと言える状況が続きそうです。

豪ドルについて 売り?or買い?

答え:中国経済と今後の指標次第なのでまだ様子見

豪ドルは先日のCPIで予想よりも高い数字が出てきており、
また再利上げをしたことで、豪ドルが買われていましたが、
6日の政策金利発表では、再度利上げ停止が予想されています。

しかしロウ総裁のここ最近の発言からはむしろインフレリスクは上向きで、
引き続きインフレ抑制の為に取り組んでいるという発言も出ています。

そのため
サプライズでの利上げも十分考えられますから、
発表前後のポジションメイクには注意が必要です。

また、ここで同時に押さえておくべき視点としては中国経済に関してですね。

これまでは思ったよりも鈍化していましたが、
ここ最近では商品市況も足元上昇してきており、
原油価格も上昇し始めてきています。

このように今、中国経済復活は時間の問題とも言えますので、
これが数字となって表れてくると、
豪ドルも再度買われやすい展開になるのではないかと考えています。

その上で、6日の政策金利発表だけではなく、
7日のGDP、8日の貿易収支等にも注目です。

NZドルについて 売り?or買い?

答え:様子見

NZドルは、
利上げ停止観測が広がっており、
ここ最近は売られていました。

ただしこちらも豪ドルと同様、
中国経済の先行きに注意が必要です。

中国の経済指標である、
5月消費者物価・生産者物価指数、
財新サービス業PMI、5月貿易統計等で、
NZドルも売買される可能性がありますから、

その場合は注意を向けておくのも良いでしょう。

カナダドルについて 売り?or買い?

答え:様子見 

カナダドルに関しては、
7日の政策金利を控えていますが、
様子見の予想となっています。

既に2会合連続で据え置きとなっており、
今回も様子見となれば、
これが定着してくる状況となるでしょう。

そうなれば、純粋にカナダ経済がどうなるかで
カナダドルが売買される展開となり、
まずは9日の雇用統計、7日の貿易収支、
またOPECプラス会合での原油価格の動向等で、
カナダドルは売買されていきそうです。

円について 売り?or買い?

答え:売り

最後に円に関してです。

今の日本は「インフレ状態に突入する」
タイミングであると上記でも述べましたが、

政府としてはこのインフレを通して
「しっかりと政策運営している」というアピールを
国民に見せる必要があります。

その一つが賃上げですが、
当然賃上げは政府の要請でできるものではなく、
各企業経営者の判断の元、行われるものです。

しかし賃金が上がらないと政府批判されるのも事実ですので、
ここは政府としては、何か政策をしているアピールが必要になってくるのです。

そのため、
今月中に閣議決定される骨太方針で、
日銀が掲げている2%の物価目標に関してさらに
「賃金の上昇を伴う形で」と追加するように動いている様子。

また、この動きは「生産コストを上昇させる」形で起こるインフレではなく
賃金上昇や商品に原材料などの価格を上乗せする形でのインフレを目指しており、

結果として日銀は
「金融緩和継続」をせざるを得ない状況が
今後も続きそうだと言えます。

そうなると、
昨年のような過度な円安も可能性としては出てくる為、
今後政府や日銀としては、

金融緩和を継続しつつも、
過度な円安になれば為替介入で対応する

というような動きになっていきそうです。

ただいずれにせよ、
金融緩和という大きな流れは変わらないはずですので、
円は引き続き売られやすい展開となっていくでしょう。

今週の注目ファンダはこれ!3者会合とYCCについて

このように、
アメリカのデフォルト回避がもたらす各国への影響や
それを受けた指標の発表により、

現在はいくつかの主要通貨ペアが
「様子見」に近い判断となる形になりました。

しかし、
「アメリカのデフォルト回避」に関して
オバマ政権時を視点の1つとして取り入れる必要があったように、

ファンダ分析においては
過去の事例を参考にある程度の見通しを立てることができます。

ここからは、

●5月30日に開催された財務省・金融庁・日銀による「3者会合」

●6月16日に控えた日銀金融政策決定会合でのYCC
(利回りをターゲットにした、国債の買い入れ操作)

この2点に注目して、
過去の事例を元にある程度先読みできる要素を整理してみましょう。

過去の3者会合とその後からわかる着目点

5月30日に突如、
財務省・金融庁・日銀による「3者会合」が開かれました。

そしてこの開催を受け、
為替介入の思惑が予想された結果、
円買いの動きが活発になっています。

ただ、昨年も3者会合が開かれたのですが、
その時は6月10日で、ドル円市場としては134円前後を推移していた時。

その後さらに円安が進み、
9月8日にも再度3者会合が開かれ、
その2週間後の146円付近で為替介入が行われています。

この流れは覚えておいた方が良いですが、

今回の5月30日の会合後の神田財務官の発言としては、
「過度の変動は好ましくない」「必要があれば、適切に対応していく」
という趣旨の発言があり、為替介入のステージとしては、まだ初期段階と言えます。

ちなみに昨年の為替介入時の、
日銀や財務省からの発言を切り取ると、

・あらゆる手段を排除しない
・いつでもやる用意がある

等の強い言葉が出てきた直後に為替介入が行われましたので、
これらのような言葉が今後出てくると要注意です。

YCCの撤廃と修正に関しての今後

またさらに
6月16日には日銀金融政策決定会合を控えています。

ここでは僕は、

YCC(利回りをターゲットにした、国債の買い入れ操作)

の撤廃や修正は行われないのではと考えています。

まず前回のCPIでは、
生鮮食品やエネルギーを除いたコアコアが+4.1%となっており、
エネルギー価格でのインフレではないことは既に確実。

そして日銀としては、
またもや今年のインフレ見通しを
1.8%から2.5%へ上方修正しています。

また同時に、
労働組合が毎年春に行う賃上げ要求「春闘」でも
今年は30年振りの賃上げ率となっており、

植田総裁としては当然、
来年の2024年の春闘も視野に入れねばなりません。

このように現在
あらゆる観点から賃上げをさせる必要があり、
その為に今YCCの撤廃や修正等はできないでしょう。

もし仮に今回YCCの修正を行った場合、
市場はどうしても「利上げ」と認識します。

実際、
昨年12月の長期金利の変動幅の許容を±0.5に引き上げた際も、
市場や報道関係者は事実上の「利上げ」と受け止めてしまいました。

日銀がいくら説明しても、
市場関係者や国民が「利上げ」と捉えると、
次はETFの売却だ、金融引き締めだとなり、
株価が暴落して景気の腰折れとなってしまいます。

そうなると、またインフレは収まるかもしれませんが、
また以前のようなデフレで、成長の無い日本に後戻り。

日銀としてはこの事態は絶対に避けたい為、
早すぎる「利上げ」だけは、絶対にしないでしょう。


そのため、
国民の誤解を与える可能性のあるYCC修正等も含めて、
まだ今回は時期的に早すぎると考えるはずです。

YCCの修正や撤廃は、
賃上げが十分になされ、
実質賃金も上振れた状態になって初めて行われると考えます。

まとめ~株価と賃金の上昇で起こること~

ここまでで各通貨の現状や
そこから考えられるファンダ分析について触れてきましたが、
結論としてはまさに今日本は「変化」が起きている時期ですね。

5月31日に日経平均株価は
リバランス等の影響で大きく下落しましたが、
売買代金は、過去最高の数字となりました。

連日売買代金は高い数字となっており、
外国人投資家もアベノミクスの時以上に
買い越ししている状況です。

ここまで日本が注目されるのは、
バブル崩壊後以降、無かったのではないでしょうか。

時価総額ランキングでは、
日本の企業は全く見られなくなったとよく言われますが、

海外に住んでいると、
「made in Japan」の信頼性は
やはり高いことを色々な場面で感じます。

そしてそれが安いとなれば、
外国人が放っておくわけにはいきません。

また最近では、
日本人が苦手だった価格転嫁もある程度行われるようになっていき、
それが企業収益に繋がっている企業も多く見られるようになってきました。

これにより、インフレとともに賃上げも行われていくようになり、
同時に株価も上昇していくような状況が、
まさにこれからの日本では見られていくのではないかと考えています。

積立NISAランキングでは
米国株が上位の状態ですが、

ここ最近の日経平均株価の上昇は、
米国株をも上回る勢いとなっており、

米国株の上昇率を抜いて、
時価総額ランキングでまた日本の企業が
上位に来るような日が来るのも近いかもしれません。

以上、何か参考になれば幸いです。