『八木虎之巻』という相場書が語ること
こんにちは、須藤一寿です。
いつもご覧くださり、ありがとうございます。
今回は、『八木虎之巻』という江戸時代の相場書について、ちょっとお話します。
と言っても、中身そのものよりも、これの存在そのものが現代の私たちに語り掛けてくれることに思いを向けてみたいと思います。
江戸時代の書物といっても、侮ることはできません。
実は現代にも通じる内容が、200年以上も前の相場書にしたためられているのです――
『八木虎之巻』が私たちに語り掛けること
とはいえ一応、それでも中身にも簡単に触れておきましょう(笑)
『八木虎之巻』は主に、相場の心構えについて語られており、現代のような具体的な取引手法を期待すると、肩透かしを食らうことになります。
「もうはまだなり、まだはもうなり――」という相場の格言をご存じの方も多いと思いますが、あの格言の出処として有名なのが『八木虎之巻』です。
さて、この『八木虎之巻』。
極めて稀な秘伝書かというとそうでもなく、販売当時、割と売れた本らしく、今でも古書が手に入ります。
大抵の場合、入手に際して複数冊の中から選ぶ余地があるぐらいは残されています。
そんな中、現存する『八木虎之巻』の古書をあたっていて気付くことがあります。
それは天明7年か、その前後に発行されたものが圧倒的に多いということです。
現存する数が多いということは、確率的に言ってその年代に売れた数が多いと考えて差し支えないでしょう。
天明7年前後になぜこの本がたくさん売れたのか。そこには何か理由があるはずです。
答えは――
天明の大飢饉:天明2-8年
皆さまもうお気付きでしょう、大飢饉の真っ最中とあれば米の値段は高騰します。
もう少し厳密に言うと、米相場はただ上がるというより乱高下しやすい、ボラティリティが高い状態にあります。
生活が苦しい中、相場で一山当てる話が人々の関心となります。
そんな中、相場の秘訣を記したと話題の『八木虎之巻』が売れに売れる……
「あれ? 今と何も変わらないんじゃ……」
相場を巡る世の動き、人の動き――
江戸時代も現代も変わらないんですね。
そのことを、この皺の寄った古書は私たちに教えてくれていると感じます。
巻末に書き込まれた、たどたどしい字の名前――
持ち主の名前でしょうか。それを見る時、何か不思議な気持ちにさせられます。
「人間というものが変わらないのであれば、相場の本質も変わらない」
その思いを強くした経験であり、相場の面白さ、厳しさ、不思議さ、悲しさ、いろんなことを感じながら、取り組みの姿勢を新たにさせられる思いでした。
今回もお読みくださり、ありがとうございました。